真中が決意の言葉を口にする。

「西野。話があるんだ…」
『東城がくれた小説。それが俺の思いを走らせていて』
「俺達の関係。…白紙に戻せないかな」
……凍った。当時リアルタイムで読んでた時を思い出す。
いきなりこんな発言から始まるのか!?
そもそもこんな場所で言うセリフか!?西野の表情が正視に耐え難い…。
カラオケボックスの外ではいまだに雪が降りやまず。
にぎやかなはずの店内でさえ静まり返ったかのようなの夜。
そして室内のモニターは次の曲さえ流さない、この『清算』な夜はまだ始まったばかりである…。
「…マフラー」
静寂の中、西野の呟きから始まる。

「あれじゃ淳平くんの心はつなぎ止められなかったんだなって…」

『これ。風邪ひいたらいけないから』
唐突な西野の言葉は真中をつなぎとめるはずであったアイテム。
同じ女の子として
東城は、そのマフラーの意味に気付いていた。 
だからこそ外させないために、近くの店に入ることよりも「公園」を選んだ。
それが東城の優しさだった。
昨日。
真中の家の前で東城とあった瞬間に
『あ。もう。ダメなのかなって』
西野自身覚悟は決めていた。そんな西野の勘違いをすばやく修正する真中。

「きっかけは、東城が書いた小説。東城じゃなくて小説の方なんだ」

「だから俺。真剣に映画の道、目指したいなって」
別れを決める原因を、ここにきて本気で、そして本音で話す真中。
皮肉な話だが、二人の関係を白紙に戻すということで
今まできちんと話してこれなかった真中の気持ちを話すことができたのである。
高校受験のとき、泉坂高校に行きたい理由を話せなかった真中。
『映画作る人』になるという夢を語れなかった真中。
それは笑われるのが怖かったから。
西野のことをよく理解していないうえに
西野のイメージを勝手に自分で作り上げたがためにおきた間違い。
そのときから夢を語り合える東城に惹かれはじめていた真中。
だがここにきて初めてふたりは理解しあえた気がする。 西野のやさしさに甘えたら、甘えっぱなしになってしまう。
そんなんじゃ夢は叶わないと思うから…。
別れという選択肢を選ぶ。西野が留学している間、俺も頑張ってみようと…。

「その前にあたしが誰か他の男、見つけるかもしれないよ?」
「だとしても。…もう決めたから」
真中が夢の実現のために『進む』という不退転の決意。
映画に関して真中の妥協はない、それは昔から変わらない。
決めた事だから。
どんなことが起きても…。
どんなことになっても…。
それは自分が決めた事だから。
このなにげなく交わされた
セリフのやり取りにふたりの切なる想いが込められている。
それは西野にしても同じこと。
西野も自分の夢を持っている。
その実現のためには、たとえ反対されても反対を押し切るであろう…。

「だけど。
あたしがフランスに旅立つまでは、あたしは淳平くんの彼女だからね!」
こうして、2月14日にして、最悪の夜を回避した。
西野がフランスに旅立つまで、ふたりの関係は続くことになった。
これで
「実は…俺。
やっぱり東城のことが好きなんだ。」
などと言い出した日には、東城ファンだってキレた。
最低男。真中淳平の前途を祝して
派閥を越えてブラッディーバレンタインとなっていたであろう。
■チョコ。オトナ味。
西野のいたずら。
バレンタインのチョコの中にひとつだけ入れられたものすごく苦いチョコレート。

「にゃんらこれ…。にがっっ!!」
「大丈夫? あたし苦いチョコ甘くする方法知ってるよ」
「嘘! 教えて教えて」
「あのね…」
キス。ふたりのキスシーンは3度目。
しっかりと描かれるのはこれで2度目。
なにより今回のキスは西野から…。


幻想的な西野ファーストキスシーン。
これがふたりの仲を決定付けた。
こんなことされれば甘くなりますって…!!前話のラストひとコマから
こんなシーンが起きるなんて全然考えてなかったですよ。
考えれば考えるほど味なことをする女の子である。
そもそもこの苦いチョコレートをどんな想いで作ったのか?
本当に罰ゲーム的な意味で作ったのか。
それとも、キスを誘導するために計画して作ったのか。
そもそも真中に呼び出されたところから覚悟してたってことでいろんなことが考え出されてやまないです。

「あ…」
真中に抱きすくめられて吐息を漏らす。
色気と離れた位置にいた女の子が
突然色気を出すとなんかこうエッチなんだよね。

「…いつ行くんだ? いつまで会える?」
「…さ、3月2日…。卒業式が3月1日だか…ら…」
西野の声に、このエッチっぽい声に。
一瞬大事なこと忘れそうになった。
西野の出発日くらいチェックしとけ!!「だからそれまで、あたしのこといっぱいいっぱい抱きしめて…」
最悪の夜となる悲劇を回避したふたり。
それからの15日間があまりにもあっけなく過ぎていってしまったがこれはこれでよかったのだろう。
きっと毎日ふたりは時間の許す限り会ったのであろう。
互いのてのひらに温もりや感触が染み込まれるまで
互いの身体が互いの違いをはっきりと認識するまで
そして、その匂い・その吐息が
身体全体に染み込むまで。
自分の記憶に刻み込まれるまで。
ずっとずっと、やさしい時間をすごしたのであろう。
そして、別離のときが来る…。
別れぎわを寂しいものにしたくない真中は空港で、はしゃいでいた。
見送りは真中ひとりだけだった。

「両親やバイトの人たちは仕事あるから。
友達も昨日卒業式のついでにお別れ会してくれたし…
てゆーかホントは彼氏が来るから遠慮してって頼んだんだけどね」
この西野の表情が本当ににくらしいほどイイ表現ですわ。
おどけてみせてまで
この別れは永遠の別れではないということを強調するかのようである。

「ありがとう淳平くん。キミに見送られて出発できること、本当に幸せだって思う」
正直。すてきだなと思いました。
正直。すごく潔いなと思いました。
このセリフは、迷いとか不安や不満があったら上手に言えません。
いままでいろんな西野の表情をこのプログでピックアップしてきましたが
こーゆーのかなりお気に入りな表情です。
フランスに着いたらもうふたりは彼氏でも彼女でもない。
この関係は白紙に…。解消される。 西野の口から出るのは…。寂しさと強がり。
「向こうに着いたら、もうあたし彼女じゃないから…」
「電話もしないし…」
「手紙も書かないし…」
「淳平くんのことも、なるべく考えないようにするから…」

「動いちゃダメ!!
あたしも、もう振り向かないから、淳平くんもこのまま帰って!!」
ここでめずらしく西野が自分からビシッと切り出した。
もう数時間後にはフランスに行く機内の人となる。
真中の顔を見ていたら決意が揺らいでしまう。
これからはお互い
それぞれの未来に向けて頑張ろう…。
それぞれの未来に向かって。
ふたりの進む道は、別の方向へと向かっていく。
菓子職人になる夢。
映画監督になる夢。
それはいままでずっと考えて…とても真剣に選んだ道だから。

だから『振り向かない』
これから先の未来は、夢の方だけを向いて歩いていく。
出会いと別れ。
どんな形であれ、それはいつか来るものである。
ずっと一緒にいて欲しいと願ってもいつかは別れのときがやって来る。
その理由もそれぞれである。
どんな者にも平等に出会いと別れは訪れる。
誰かと出会うという事は、同時に別れのはじまりでもある。
その別れの理由が永遠の別離…。『死』でないのであれば。
きっとふたたび、またどこかで出会う日が来る。
出会いは縁。そして縁はたとえ切ろうとしても切れないものである。
『それにいつかまた会えるよ』
互いに成長したとき。
ふたりをつないだ運命が再びふたりを結び付けるかもしれない。

だけど…。

だけど。
もう一度だけ。
最後にもう一度だけ。
…振り返る
すぐ後ろに、真中。このマヌケな間も
逆に物語を引き締めてしまうから
もうたまらない。

最後の抱擁。
「会えるよね?
またいつかあたしたち出会えるよね!?」
他人の目なんか気にしない。
運命はいたずらを起こすけれども、縁は自ら切っても切りきれないものなのである。
「そして次に会う時は
もっとあたしのことワクワクさせてくれる淳平くんになっていてね!」

「それじゃカンヌで待ってる!」
これはあきらかに未来への伏線ですよね!? 数年後。西野と淳平が再び出会う舞台は…フランス。
『いちご100% 第2部 〜フランス編〜』がスタートするわけですよ!!
そして映画監督真中は、人種の坩堝フランスにて
さまざまな女性達と複雑な恋愛模様を繰り広げるんですよ…。
もーいいよ。
そんな真中なんて見たくないよ。
旅立つ西野にはやはり笑顔でいて欲しい。
西野を載せた飛行機は日本を飛び立っていく…。
まさか前回の流れから、こんなにいい話につながって行くなんて誰もが予想しなかったでしょう。
絶対に真中の血祭りだ。
とうとう物語全体にひびを入れてしまった。…と思ってました。
いままでずっと楽しんできた『いちご』という作品を
最後の最後で投げ捨てることになるのか…。
東城の告白のとき以上に絶望するのか、と。
けれど違った。
河下先生は『奇跡』を書き上げた。
こんなにも、感動のあまり鳥肌が立つなんて…。
西野との関係を美しいままで、別れまで書き上げ
留学という問題を、こういう形でクリアさせるとは思っていませんでした。
この別れなら、ほとんどの西野ファンは納得いったのでしょう。
この展開で次回、東城と付き合っているということは絶対にありえません。
確実に西野エンドです。それ以外は認めない。
これで最終回にしなかったのはなぜかという話ですが
それは、真中自身がまだ未来への展開をなにも示していないからです。
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