
「おはよう」
朝、目が覚めたらすぐ隣りに好きな人がいる幸せ。
見知らぬ土地への旅行先。
ぬくもり残るシーツの上で真中は軽く混乱する。
この旅の目的地。
それは、西野が昔住んでいたところ。

「話してなかったっけ?」
都会の子っぽいイメージのあった西野。
ここは西野が5・6歳まで住んでいた街。
病気してたお母さんが入院のため、田舎のおばあさんの家に預けられた思い出の地。

「おばあちゃんはもう亡くなっていないけど
残された家は、親戚の人達と大切に保管して
ちょっとした別荘代わりになっているの」
ここで隣りに住むおばさんが声をかけてくるが、西野の機転で上手くやり過ごす。
そう。今回の旅だけは邪魔者が入ってほしくないのである。
嘘をついてまで西野が真中といたい理由…

「淳平くん つかさと一緒に高校生活最後の夏の思い出作りしてしてっ」
「はっはっはっ。いやあー。どうしようかなあー」
アホか…。
もう無理矢理エッチなシーン書かなくてもいいって感じですね。
そしてふたりはこの街の縁日へ繰り出す。

浴衣姿である。
ああ。日本の夏っていいよなぁ…。

かわいいよ。西野。
すげーかわいいよ…。
見知らぬ土地で西野とふたり。
浴衣姿で手をつなぎ、夏祭りの喧騒の中へ。
今死んでも悔いがないほどのこのひととき…。
この縁日のクライマックスは、寺の池に浮かべる『笹舟流し』
かなえたい願いを笹舟に託す。
『こんなに遠くに来てまで叶えたい願い…。』
実は西野の心はパンク寸前だった。

「…菓子職人は、ちょっと嫌になっちゃった」
自分で選んだ道のはずなのに
いつしか敷いたレールの上を走っているだけのような気がして…。
夢を諦めるつもりはない、ただちょっとひと休みしたかっただけ…。

「ごめんね。あたし淳平くんしか逃げ場ないんだ…」
どうしようもないほどへこんだときに、その気持ちをつつんでくれる存在。
自分の弱い一面を見せられる存在。
西野にとってその存在が『真中』 なのである。
真中はそんな西野のために想いを笹舟に託す。
『…西野がずっと笑顔でいれますように…』

山の天気は変わりやすい。
ふたりは雨に降られ、家まで走った。
祭りの後、ちょっとした非現実からいきなり現実に戻るこの感覚の中
『今夜は眠くないし、きっと眠れない…』

ふたりこのあとの展開を考える時間はある。
互いの鼓動がやけに生々しく響く時間だ。
口火を切ったのは西野。
「あたし。先、お風呂入る…ね」

部屋で体を拭く真中。
いっぽう服を脱ぎ風呂に向かう西野…。
真中の脳裏に残る西野の弱さ。
「あたし淳平くんしか逃げ場ないんだ…」
『自分が西野と付き合っているのなら、
彼氏だったら…。
なんだってしてあげられるのに…。
西野が望むことなら何だって…』

その頃西野はシャワーに打たれながら、何事かを決意する表情をたたえていた。
そして夜が更けた。
風呂から上がった真中は、部屋に敷かれた一組の布団を見て、
ホッとしつつもガックリとする。
そう。今の関係が一番いいんだ。
きっと…。
床についた真中の背後でふすまが開かれた。

「雨の音がうるさくて… 眠れないの…」
笹舟に書かれた西野のメッセージ。
『 …の彼女に… つかさ』
がしめす西野の心の動きから目が離せない!!
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